朱肉とスタンプ台の違いとは?

印鑑を押すときに欠かせないのが朱肉です。

大切な書類に押すと浮かび上がる赤色の印影。自分の意思を表すツールとして、身が引き締まる思いがしますよね。

ところで、朱肉と同じ赤色のスタンプ台もありますが、これを朱肉の代わりに使って押してもいいのでしょうか? 反対に、ゴム印を朱肉につけて押すのは、行為として正しいのでしょうか?

「印鑑を押すなら朱肉」、「ゴム印ならスタンプ台」と使い分ける方はいると思いますが、それはなぜなのか。具体的に朱肉とスタンプ台はいったい何が違うのか、明確に答えられる方はあまり多くないかもしれません。

そこでこの記事は、朱肉とスタンプ台の違いについて解説します。インク補充の仕方、掃除のお手入れ方法なども紹介しています。ぜひ最後までご覧ください。

朱肉とスタンプ台は一体何が違う?

朱肉とスタンプ台の決定的な違いは何か。それは「インクの成分」です。

朱肉は中国・宋代に誕生したと言われ、日本では奈良~鎌倉時代の頃に伝わったとされています。当時の文書に押された印影は、今でも鮮明な状態で残っており、いかに朱肉が印影を長く保存できるかが分かります。

現代においても重要な書類に朱肉を使うのは、「印影の長期保存に耐えられる」のが大きな理由です。印影を永く忠実に残す、というニーズにぴったりと言えますね。

近年は、吸収乾燥性に優れた速乾性の朱肉もあります。押した書類をすぐに積み重ねられるという便利さに加え、セキュリティ性を高める効果もあります。すぐに印影が乾く速乾性朱肉は、手形印や受領印が乾かないうちに別の用紙に転写する…といった犯罪を防ぐ役割を果たしています。

ちなみに朱肉の種類は、「練り朱肉」と「スポンジ朱肉」に分けられます。

練り朱肉は、朱液にパンヤやモグサなどの繊維質や和紙を混ぜて練り上げたもの。印影が長期間にわたって劣化せず、厚みがあって鮮明な印影を得ることができます。

半永久的な保存が必要な書類などに便利です。また、書画に落款印を押すときに使う愛好家もいます。

スポンジ朱肉は、朱液をパッドに染み込ませたスポンジタイプで、契約書などの書類に押すときに使用します。一般的に使われるのはスポンジ朱肉になります。

印鑑を朱肉で押すには、油性顔料に対応した耐久性のある印材が必要です。

黒彩樺(くろさいか)や牛角(うしのつの)、薩摩本柘(さつまほんつげ)など、捺印に適した印鑑が使われています。

一方、スタンプ台のインクはゴム印の用途にあわせて、水性染料・水性顔料・油性染料・油性顔料があります。

油性顔料のみの朱肉に対して、スタンプ台はさまざまな種類のインクがあります。例えば染料系インクは、紙や布の繊維の隙間にインクが染み込んで着色します。滑らかで発色性が高く、色数が多いのが特長です。

また油性顔料のスタンプ台は、紙だけでなく、ガラスや金属、プラスチックなど非吸収面の素材にも押すことができます。工業用途でニーズがあります。溶剤よりも分子が細かいため、捺印した表面から分子レベルで素材に浸透するのです。

油性染料のスタンプ台は、カタログやDMなど光沢感のある紙に押すのに適しています。

スタンプ台とセットで使用するのがゴム印。ゴム印はゴム素材を用いた印のことで、住所印や日付印、会社印などさまざまな種類があります。こうした多様なゴム印にあわせて、スタンプ台も用意されています。

朱肉とスタンプ台を間違えて使うとどうなる?お手入れ方法は?

先ほど述べたとおり、「印鑑には朱肉、ゴム印にはスタンプ台」と使い分ける必要があります。

それでは、「ゴム印を朱肉で押す」「印鑑をスタンプ台で押す」と使い方を間違えると、一体どうなるのでしょうか?

まず、ゴム印を朱肉で押した場合、ゴム印が朱液に反応して印面が溶けたり膨らんだりする恐れがあります。理由はゴム印の素材が油分に弱いから。印面の劣化が早まりやすくなるので、注意が必要です。

もし、ゴム印を朱肉で押したい場合は、「黒ゴム」と呼ばれる黒い印面のゴム印を使いましょう。耐油性のある素材で作られており、印面の劣化を抑えることができます。

一方、印鑑をスタンプ台で押した場合、印影が薄く、鮮明に押すことができません

さらに、印鑑そのものにも悪い影響が出ます。例えば、アクリルや樹脂の素材の印鑑に油性スタンプ台を使用すると、印面が溶ける場合があります。また、黒水牛や牛角などの素材は印面にひび割れを起こす、ツゲや象牙などの印鑑を染料系スタンプ台で使うと、印材が色素を吸い上げて変色する、といったトラブルが起こることも。

こうしたトラブルは全てのスタンプ台で生じるわけではありませんが、印鑑には必ず朱肉を使うようにしましょう。

このように間違った使い方をすると、大切な印鑑やゴム印を傷めてしまう原因になります。正しく使い分ければきれいな印影が得られ、印鑑やゴム印も長持ちするので覚えておきましょう。

朱肉とスタンプ台のインク補充のやり方は?

朱肉とスタンプ台は、インクを補充することで繰り返し使うことができます。

補充用インクはハンコ専門店や文房具店などで販売されています。気を付けたいのが、使用している朱肉・スタンプ台の同じメーカーの補充用インクを使うこと。メーカーによっては成分が異なるので、朱肉が変色したり成分が分離したりする恐れがあります。必ず同一メーカーの補充用インクを買うようにしましょう。

また、スポンジ朱肉の場合、容器のふたを開けたままにしておくと、朱肉が乾燥する場合があります。乾燥すると、印面に朱肉がつきにくくなりますが、インク補充することで繰り返し使えます。

それでは朱肉とスタンプ台のインク補充方法について紹介します。

朱肉のインク補充方法(スポンジ朱肉の場合)

補充用インクを上下にしっかり振り、朱肉のスポンジ部分に押し当ててインクを浸透させます。このとき、同じ箇所に補充するのではなく、円を描くようにスポンジ全体にインクを垂らします。この工程を5回ほど繰り返します。

補充を済ませたら、約30分そのままにしておきます。こうすることで、朱肉にしっかりインクが浸透します。最後にスポンジの表面をティッシュペーパーなどで拭き、余分なインクを取り除いたら完了です。

スタンプ台のインク補充方法

朱肉と同様に補充用インクをしっかり上下に振ります。スタンプ台の盤面に塗布した後、ノズルの先を盤面に軽く押しつけながら全体に塗り広げます。インクが完全に浸透するまで、しばらくそのままにしておきます。最後に試し押ししてチェックしてください。もしも印影にかすれがあったら、インクが浸透しきっていないか補充したインク量が十分でない場合があります。浸透するまでもうしばらく待つか、上記の作業を2~3回繰り返しましょう。

また、「朱肉とスタンプ台にインクを補充しても、鮮明な印影が得られない」なら、盤面が汚れているかもしれません。この場合、盤面のホコリや汚れをきれいに取り除くことで解決できます。柔らかい布かキッチンペーパーなど、丈夫でクズの出ないもので軽く表面を拭き取ったり押し当てたりします。

汚れがひどいものは、歯ブラシで軽くブラッシングしてゴミをかき集めた後で、拭き取るといいでしょう。

印鑑には朱肉を、ゴム印にはスタンプ台を使おう

ここまで、朱肉とスタンプ台の違いについて解説しました。

まとめると、

朱肉は油性顔料で印鑑を押す用途に用いる。印影を長期保存したいときに使う。

スタンプ台は大まかに4種類のインクがあり、ゴム印の用途に合わせて使い分ける。

となります。

両者はインクの成分に大きな違いがあり、それぞれインクの成分に適した材質(印鑑、ゴム印)を用います。

もしも、朱肉やスタンプ台を使って印影がかすれていると思ったら、インク補充することで繰り返し使用できます。補充用インクはメーカーごとに販売されています。必ず朱肉・スタンプ台と同一メーカーのインクを選ぶようにしましょう。