「印鑑を買いに来た」、「印鑑を落とした」、「この契約書に印鑑を押してください」……。ハンコ社会の日本では、こうした使い方を耳にすることがよくあります。
ところが、日本語としては間違っていて、この場合は「ハンコ」を使うのが正解です。
「え?印鑑ってハンコのことでしょ?」と思いますが、厳密に言うと両者には大きな違いがあるのです。
そこでこの記事は、印鑑とハンコの違いについて解説します。また、似たような用語として知られる「印影」についても紹介しています。ぜひ最後までご覧ください。
印鑑とハンコの意味は?それぞれの意味を解説
まずは、「印鑑」と「ハンコ」の違いについて説明します。
「印鑑」とは、実印や銀行印など「ハンコを登録した印影」のことを指します。物体としてのハンコのことではありません。
この用語は、印鑑証明や印鑑登録、印鑑条例などから生まれたものとされています。語源は、ハンコの真偽を照合するための台帳で、これを「鑑(かがみ)」と呼んでいました。役所は、捺印したハンコが本物かどうかの確認を肉眼でおこない、その「鑑」に描かれた印影と押した印影が合っていれば、本物のハンコだと判断していました。
そのうち、「鑑(かがみ)」のことを「印を記した鑑」となり、それを略して「印鑑」という言葉が誕生。登録された印影や、真正であると認められたものも「印鑑」と呼ばれるように変化していきました。
現在は「鑑(かがみ)」を使うことがなくなり、パソコンなどで管理された印影と照合して真正を確認しますが、呼び名としての「印鑑」は今でも広く定着しています。
一方、「ハンコ」は物体としての呼称で、印材に彫刻したものを指します。木や角、象牙、石のほか、金属、合成樹脂でできたハンコもあります。
ハンコは「印章」とも呼ばれていますが、これは刑法第19章に規定された「印章偽造の罪」に基づいています。「文書偽造罪」や「有価証券偽造罪」の予備や未遂的な行為を処罰するための刑法です。ここでいう「印章」には、拇印や花押、三文判、雅号印なども含まれます。
なお刑法の印章の定義として、「印顆(いんか)と、印顆に印肉をつけて紙や木に捺した印影の両方を含む」としています。
※印影だけという考え方もあります。
印影とは?印鑑との違いは何?
「印影」とは、ハンコを紙などに捺印したとき、「紙に残った朱肉の跡」を指します。
一見、「印鑑」と同じ意味に思えますが、印鑑は「役所や銀行に実印や銀行印などのハンコを『登録した印影』」のこと。対して印影は、紙に押した朱肉の跡のことです。印鑑登録した実印なども、紙に捺したものは「印影」と呼びます。つまり公的な機関で登録したハンコは印鑑で、紙などに押した朱肉の跡は印影、となります。
また、認印や浸透式スタンプなどで押したものも印影と呼びます。例えば回覧板への押印や宅配物のサインで、「ハンコをお願いします」と言われた時に差し出すのは「印影」になります。
これを正しく日本語で表現すると、「ここにハンコを押して印影をください」となりますが、日常生活では簡略化されています。
ハンコにはいろいろな呼び方がある
「ハンコ」は多くの呼び方があります。先ほど挙げた「印章」の他に、「はん」、「印」、「印判」、「印形」、「印信(いんじん)」、「璽(じ)」などがあります。
印章の「章」は「模様のある印」のことを指し、バッジやメダルの徽章(きしょう)、勲章などにも同じ「章」の漢字が当てられます。
「璽」は皇帝が持つハンコのことです。そのルーツは、飛鳥時代の701年に制定された大宝律令が起源。官印の1つとして「天皇御璽(ぎょじ)」を規定したことがはじまりです。
天皇御璽は金製の角印で作られ、印面には「天皇御璽」の印文が刻されています。大きさは3寸(約9.09cm)、重さは約3.55kg。金製だけあって重量感がありますね。天皇御璽は、詔書、法律・政令・条約の公布文、条約の批准書など、国事行為にともなって作られる文書に押されます。
他にも、国の官印として「国璽(こくじ)」があり、こちらは文化勲章の授与の際、褒状に押されます。印面には「大日本国璽」と刻されています。
ところで「ハンコ」の語源は、「江戸時代に呼ばれていた『版行(板行)』が音変化した」という説があります。版行(板行)とは、江戸時代の版画の呼び名で、当時は木の板に文字や絵を彫り、それを書物にする版画技術が一般的でした。同じ文字や絵を何度も版画で刷ることから、次第に簡略化されて「ハンコ」の言葉が生まれた…という説です。
他にも「版木で書物を印刷することと、印章で印影を捺印することが混同して生まれた」、「判を押すことをおこなう」など諸説ありますが、その真相は明らかにされていません。
なお、ハンコは「判子」と表記することもありますが、これはただの当て字で、正式な漢字ではないのでご注意ください。
日常生活では「印鑑」を使うのが一般的
ここまで、印鑑とハンコの違いについて紹介しました。
まとめると、
・印鑑
実印や銀行印など登録したハンコの印影のこと。印の真偽を見極める基礎となるもの。
・ハンコ
物体としての呼称。「印章」、「はん」、「印」と呼ぶこともある。
・印影
ハンコを紙などに押したもの。印鑑登録した実印なども、紙に押したものは「印影」と呼ぶ
となります。それぞれ、明確な違いがあることが分かりますね。
ただし、日常生活で印鑑とハンコを区別して使うことは、ほぼありません。
登録を済ませた実印・銀行印や、登録していない認印も、まとめて「印鑑」と呼ぶことがほとんどです。
ハンコを扱う専門店でも、印鑑とハンコの違いを知った上で、区別せずに使うことがあります。
一般的に馴染みのある「印鑑」のほうがスムーズに接客できるから、などの考えがあるようです。
ちなみに辞書にも「印鑑はハンコのことである」と記載されています。
デジタル大辞泉で「印鑑」について調べると、
【印判。印。判。はんこ。】
…とあり、本来の意味から変化していることが分かります。
印鑑とハンコの本来の意味や違いを知っておくと、ビジネスシーンで役立つかも?知識として覚えておくといいですね。