印鑑ケースの朱肉は使ってはいけない?

印鑑を収納するときにおすすめなのが印鑑ケースです。ケースに入れて保管することで、印鑑が傷ついたり、転がって紛失したりといったトラブルを防止できます。

また、湿気や温度変化、埃、虫など、環境の変化や外敵から印鑑を守るという役割もあります。ところで、印鑑ケースによっては朱肉が付属しているものがありますが、「ケースの朱肉を使ってはいけない」という書き込みがネット上で見られます。

「訪問販売業者から『自身の内臓を痛めてしまう』と言われた」

「朱肉は血を表し、使うと自分の体を削ってしまう」

…などの書き込みがありますが、使うと何らかの問題があるのでしょうか。そこでこの記事は、「印鑑ケースの朱肉は使っていいのかどうか」について解説しました。

印鑑ケースの朱肉だときれいな印影を残しにくい

結論から言うと、印鑑ケースの朱肉を使用すること自体に問題はありません

ネットでは「朱肉は血を表し、使うと自分の体を削ってしまう~」というような書き込み等もありますが、実際のところは迷信や言い伝えの様なものだという見方がほとんどのようです。元々印鑑ケースとしても捺印が必要な場面で万が一専用の朱肉が無い場合等のために朱肉が付いているはずなので、極端に何かを心配される必要はないかと思います。

ただし現実的な側面を見ると、印鑑ケースの朱肉は従来の専用朱肉と比べ捺印したときの印影の仕上がりは劣ります。

印鑑ケースの朱肉は、一般的にスポンジ朱肉が使われています(一部、練り朱肉が使われていることもあります)。スポンジ朱肉は表面布が繊維でできていますが、中には目の粗い繊維のものがあります。この場合、朱肉が印面に付きにくく、印影が縞模様になってしまいます。

また、きれいな印影を残すには「朱肉をポンポンと付ける」ことがポイントです。印面に朱肉を強く押しつけるのではなく、ポンポンと優しく何度も印面に朱肉をなじませて、全体にムラなく付けるようにします。

しかし、印鑑ケースに付属している朱肉はその面積が小さいため、上記の方法で朱肉を印面に付けるのが難しく、きれいな印影を残しにくいのです。

印鑑ケースの朱肉を使おうとすると印面が欠ける恐れがある

1つ前の項目でも少し触れましたが、印鑑ケースに付属している簡易朱肉は「朱肉の面積が小さいこと」が難点です。印鑑ケースという小さな個体へ朱肉を納めようとすると、どうしても印鑑の直径ギリギリの朱肉サイズになってしまいます。これにより、印面に朱肉を均等にムラなく付けることが難しくなることは既にご説明しました。

もう一つの問題点としては印鑑ケースの朱肉を使おうとすると、印面の枠が欠ける恐れがあるということです。何故かというと印鑑の直径ギリギリの朱肉を付ける訳なので、朱肉の入っている「くぼみ」の角に印面の枠が当たってしまうことがあり、結果として印鑑が欠けてしまう可能性があるということです。

印鑑ケースに付属した朱肉の場合はこういった可能性もあるため、印鑑ケースの朱肉はあくまで緊急時の使用に留め、できるだけ専用の朱肉を使うようにしましょう。

「朱肉は血を表す」などの言説について

ところで、先ほど「朱肉は血を表し…」というネットの書き込みについて触れましたが、こうした考えは、朱肉の発祥地の古代中国で生まれたのでは、と考えられています。

当時中国では、血は神聖なものとして尊ばれ、諸侯の盟約の際にその信の証明として牛などの生け贄の血を飲み合う習慣がありました。この「血の信義」という思想から、印の代わりに血で拇印を捺す「血判」が生まれ、この血の赤が表す信義、信頼という思いが朱色を支持したと言われます。

また古代中国では、朱は高貴な色であることや、歳月を経ても変質や変色がないことから永遠の象徴とされ、不老不死の霊薬などにも用いられるようになりました。そこから転じて、潔浄や魔除けといった信仰的意味合いが加えられた、と考えられます。

朱肉が赤いのは単に原材料や色彩的な意味だけではなく、捺印に潔浄や信義を求める、先人達の思いが込められているのかもしれませんね。

印鑑ケースの朱肉はあくまで緊急用として考えましょう

ここまで、「印鑑ケースの朱肉は使っていいのかどうか」について解説しました。

ネットでは「使ってはいけない」という書き込みも見られますが、「絶対に使ってはいけない」ということではありません。もし捺印が必要な場面で専用の朱肉が無い時などには安心してお使いください。

ただし、印鑑ケースの朱肉は従来の専用朱肉と比べきれいな印影を残すことが難しく、また印面の枠を欠けさせてしまう原因となる可能性もあります。

そのため普段捺印をする際は単体で販売されている専用の朱肉を使い、印鑑ケースの朱肉は緊急時のみの使用に留めておきましょう